遅きに失した決断 首相 5、6号機の廃炉要請

 安倍晋三首相は十九日、東京電力福島第一原発事故後に廃炉が決まった1~4号機と同じ敷地内にあり、停止中の5、6号機について「事故対処に集中するためにも廃炉を決定してもらいたい」と、東電の広瀬直己社長に要請。広瀬社長は「年内に判断する」と回答した。原発視察後に首相が記者団に明らかにした。地元の福島県などは早くから全基廃炉を求めていた。遅きに失した決断で、廃炉要請によって汚染水問題の解決が進む保証もない。
 首相は十九日、視察に立ち会った広瀬社長に5、6号機の廃炉を要請するとともに、(1)廃炉に向けた予算確保(2)貯蔵用タンク内の汚染水の期限を定めた浄化-を求めた。
 これに対し、広瀬社長は事故対応の費用について「既に引き当てている一兆円にプラスして一兆円を確保する」と説明。汚染水問題についても「二〇一四年度中に浄化を完了する」と伝えた。
 首相の発言は、東京五輪招致の際、汚染水問題について「状況はコントロールされている」と強弁したことから、全力で取り組んでいる姿勢を示したものとみられる。首相は記者団に「国が前面に出て、私が責任者として対応したい」と重ねて強調したが、新たな具体策は示さなかった。
 5、6号機については、事故当時の民主党政権は「廃炉は免れない」と主張し、福島県の佐藤雄平知事も廃炉を繰り返し求めてきたが、東電側は態度をはっきりさせてこなかった。原発の再稼働に前向きな安倍政権になってからは、閣僚も廃炉に慎重になっていた。
 菅義偉(すがよしひで)官房長官は十九日の記者会見で、廃炉要請の理由について「地元の多くの人から廃炉の陳情があった」と説明した。

再稼働、そもそも無理

 そもそも福島第一原発5、6号機は、再稼働できるような状況にはない。
 深刻な状況が続く1~4号機からは約五百メートルしか離れておらず、放射線量も毎時八マイクロシーベルト(年間に換算すると約七〇ミリシーベルトで、一般人の被ばく線量限度の七十年分に当たる)ほどあり、とても長時間の作業は難しい状況だ。
 5、6号機は津波に襲われながら、辛くも重大事故は免れた。1~4号機より敷地が約三メートル高く、地上に一台ある空冷式非常用発電機が健全で、原子炉の冷却が継続できたためだった。
 東電は5、6号機の復旧作業を続けてきたが、建屋地下はまだ津波の海水が残り、地下水が流れ込み続けている。微量ながら放射性物質が含まれるため、現在も水をくみ上げて塩分を抜き、敷地内の散水で使い切れない分はタンクにためている状態だ。
 原発の新規制基準に照らしても、再稼働は無理だ。指揮所となる免震重要棟はあるが、1~4号機の対応で手いっぱい。事故が起きれば、収束作業の拠点に使える施設はない。建屋の海側の防潮堤も震災時の津波で壊れたまま。いまは消波ブロックを積み上げているものの、とても大津波を防げるようなものではない。(岸本拓也)

(メモ)原発の廃炉

 国内では、商業用原発の廃炉を終了させたことはない。現在、日本原電東海原発(茨城県)と、中部電力浜岡原発1、2号機(静岡県)が廃炉作業中だが、解体で出る放射性廃棄物の処分場が決まらないなど多くの問題を抱えている。原子炉は強い放射能を帯び、運転終了から5年以上は弱まるのを待たないと着手できない。また、終了まで最低でも20年はかかる。実験炉の廃炉経験では、切断された炉の鋼材のくずがたまり、放射線が急上昇して対応を迫られるなどの問題が起きた。

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